ストラグル 〜struggle〜
第一部 ヴェストリ〜vestori〜
著者:shauna
王宮、西門前にて・・・・
黄色の花火を空に打ち上げ、愛馬に乗ったカーリアンは整列した2000の兵士を前に宣言する。
「お前達は誇りあるこのスペリオルの兵士だ!!だが、現在、聖蒼貴族だけでなくバーの店長にすら勝る兵力を我々は与えられた。しかも、討伐する敵は彼らの半数以下である。いいか!!我々は舐められている!!」
兵士が「オオォーーー!!」と雄叫びをあげた。
もちろん、これは嘘だ。本当は味方と同数の敵を倒さねばならない。
だが、無用な心配などこの場で与える必要などまったくない。
戦は心意気も重要な要素になってくる。
嘘も方便というし・・・
「なれば今回の戦争!!何が何でも勝とうではないか!!我々、スペリオルの兵士というモノを見せつけてやる!!」
門が開いた。
目の前に敵の美しく組まれた陣形が見える。
相手も門が開いたのを確認してこちらへと進軍を開始する。
「弓兵、魔法兵!!構え!!!」
城壁の上から定石通りに遠隔攻撃。これで敵の戦力の半数を削ぎ落す。
「槍兵前列に出ろ!!盾を構えよ!!」
敵がある程度近づいた所でこの指示を出した。
中距離戦闘からは敵からの矢と魔法攻撃が始まる。
だから盾で防がなければならない。
教本通りの指示。一切のアレンジも無く・・・唯、書かれたことだけを実行する。人によってはそれを笑うかも知れない。無能と嘲るかもしれない。
だが、ハッキリ言ってそれは恥ずかしいことでも何でもないのだ。
教科書というのは学ぶ上で必要な内容が全て詰まっている。
英語の教科書なら必要な文法が、数学なら基本的な計算方法が・・・
参考書だって塾だって教科書を元にしてカリキュラムを組んでいる。教科書は基礎から応用まですべての内容が入っているのだ。
だから、あえて、もう一度言う。何を恥じることがあろうか・・・・
むしろ、教科書無しで学問を学んだ人間なんてカーリアン自身、出会ったことが無かった。
敵は想った通り、魔法と弓矢による攻撃を仕掛けてきた。
これをすべて盾で粉砕。
「迎撃せよ!弓兵、魔法兵は隊の後ろへ!隊列を崩すな!一人の敵に対して2人以上で戦え!!」
自分はゆっくりと行進を開始した。
最初に組んだ陣形のまま一糸乱れることなく足音が響く。
陣形というのにも意味があるのだ。
将棋でもチェスでも言えることだが、初期の陣形というのは最強の状態に近いのだ。つまり一番隙が少ない。
盾を構え、行進し、敵に槍が当たる距離まで近づく。
先頭集団の持った長さ3m以上の槍が容赦なく敵の鎧を貫いた。
敵の陣形が崩れる。
「槍を捨て、スレンドスピアかあるいは剣に持ちかえろ!!コードB5を適応。以上だ!いいか!一対一で戦おうとするな!!必ず二人で組を作り、一人の兵士と戦え!!」
これで、すべての指示が終了した。
コードB5・・・それは一般基本戦術の最後のコードである。内容は自由戦闘。ようは勝手にやれということだ。
兵士達がバラケるのを見届け、カーリアンも腰からレイピアを抜いた。シルフィリア特製、ヒヒイロカネを使ったエアレイピア。その名は”スローネ”柄についている護拳が植物の蔓(つる)のように羽根元や鍔に絡みついている。
スウェプト・ヒルトと呼ばれる護拳。
レイピアの中でも最も美しいと言われる形状だ。
まず、一番近くに居た敵に照準を合わせる。
すでにこちらの兵士数人を切った大男。
そいつの心臓に向かって一気に剣を突き刺した。
針が肉を刺すような独特の感触。
カーリアンがレイピアを抜くと、そこからは血が勢いよく噴き出す。
レイピアとは本来一対一で戦うための剣。故に一対一であれば無類の強さを誇る。
後ろで悲鳴を上げて倒れる男。その男には目もくれず、カーリアンはすぐに次の敵を探した。
次はあの部隊長。同じく一気に近づいて、一気に脇腹と心臓を二閃した。再び男が倒れる。
同じように状況が不味い場所から順に敵を片付けた。
敵が減っていく。やがて指揮をとっている一人の男を見つけた。
白い鎧の優男。ナヨナヨとしていて、内股で震えながらオロオロと周りを見回し、一生懸命手元の参考書を読んで対策に追われている。
カーリアンはそいつにゆっくりと近づいた。
「貴殿が指揮官とお見受けする。」
男がビクッと震えた。
「き!貴様は!!」
震える声で男が聞く。
「スペリオル聖王国第一騎士隊隊長兼正規軍左将軍。カーリアン=シュヴァリエ=ド=ダルクである。」
「しょ・・将軍・・・」
男が明らかに動揺する。
「わ!私は・・・・」
「名のらずとも良い。貴殿がこの場の指揮官かと聞いているのだ。」
男が頷いた。
「降伏しろ。もはや戦況が不利なのは貴殿にも明白だろう。このままでは負けるぞ・・・。」
「ま・・・負けたりしない!!こちらには2500の兵がある!!」
「だが、よもやその兵士は500まで減っている。こちらの被害はほぼ皆無だ。」
「ご・・ひゃく・・・」
男の震えが増した。
「わ・・・わたしも死ぬのか?」
「いや、この場では殺さん。」
男が安堵の表情を浮かべる。
「だが、反乱・・つまりテロの罪は重い。おそらく、拷問され、洗い浚いの情報を聞き出した上で市中引き回しの上で打ち首、獄門となるだろう。」
安堵の表情が一気に硬直した。まあ、今の話を聞いていい気分がする人間など居る筈もない。拷問は当然のこととして市中引き回しは文字通り、スペリオルの城下町を、縛られ、馬に乗せられた状態で、罪状と氏名と年齢が書かれた捨札と共に引き回される。打ち首は知っての通り、首を落とされる事。獄門はその首を3日間晒し、さらに首から下の部分は剣なんかの切れ味を試すための実験台になる。死体はもちろん返還されず、墓すら立ててもらえないというスペリオルの中でも最も重い刑罰の一つだ。
それをまともに食らうとなれば・・・・
「そ・・・そんな・・・」
こうなる。ガタガタと震えが止まらず、顔から出る全ての液体を出し、その場に崩れ落ちた。
「どうする?」
カーリアンが問うた。
「わ・・私とて・・軍人だ・・・覚悟はできている・・」
絶対に覚悟が出来て無い声で答えられた。
「今すぐ軍を引けば、罪は不問にできるが・・・それでもあえて罪を受けるか・・・殊勝だな。」
「え?」
男が一気に明るい顔をした。
「本当か!?本当に今すぐ軍を引けば罪は不問にしてくれるか!?」
カーリアンが頷いた。
「一応な。今後、二度と我が国に向かって牙を剥かない。そして、王都には二度と近づかない。この2つを守れるのであれば、敵は一定数を失って撤退し、追撃は必要なしと判断した。上にはそう報告しておこう。」
「お!恩に着る!!」
男は大声でそう叫ぶと空に魔法で花火を出した。
おそらく撤退の合図だろう。
なんと軍人にあるまじき行為だろうか・・・
敵に説得され、撤退に踏み切るなど・・・
自分ならこの場ですぐ自害する。それがせめてもの有終の美だと思う。
まあ、感性は人それぞれなので別に責めるつもりはないが・・
花火を見た兵士達がゾロゾロと身を引いていく。
味気ない。
さて、後は残った敵兵の捕縛と・・あとは・・・あのオカマの戦い方でも見に行ってみるか・・・・
カーリアンは一人ゆっくりと城の方へと戻って行った。
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